STAGE 8オイラーの等式
eiπ + 1 = 0 ― 五つの数の出会い
🎯 ミッション
オイラーの公式 eiθ=cos θ+i sin θ を理解し、θ=π を入れて「世界一美しい式」に自分の手でたどり着こう。
未達成

ねこ博士
道具はすべてそろった。eiθ は「単位円の上を、弧の長さθだけ回った点」。ところで単位円上の角度θの点の座標は、三角関数で(cos θ, sin θ)と書けるね。つまり――

うさ美
「右に cos θ、上に sin θ」の複素数だから……eiθ = cos θ + i sin θ!

ねこ博士
その通り! これがオイラーの公式だよ。指数関数(成長の世界)と三角関数(回転の世界)という、まるで別の大陸だった2つの世界が、i という橋でつながった。ちなみにド・モアブルの定理も(eiθ)ⁿ=einθ と書けば、指数法則そのものになる。

うさ美
言われてみれば、「θ回転をn回でnθ回転」は、もともと指数法則と同じ形をしていたんですね。eiθ と書くことで、それが式の見た目にもそのまま現れるんだ……。

ねこ博士
そうなんだ。さて、この公式の θ には、ぜひ入れてみたい特等席の角度がある――θ=π(半周=180度)。単位円を1からスタートして、ちょうど半周。着地点はどこかな?

うさ美
半周したら、実軸の反対側……−1です。えっ、ということは eiπ = −1??
eiπ =「1 から単位円を弧の長さ π(半周)だけ回った点」= −1
オイラーの公式:eiθ = cos θ + i sin θ
θ=π を代入:eiπ = cos π + i sin π = −1 + 0i = −1
eiπ + 1 = 0

ねこ博士
そう、本当に −1 になるんだ。これがオイラーの等式。「世界一美しい式」と呼ばれる理由は、出身地のまるで違う5つの数が、たった1つの短い式に、それぞれ1回ずつ現れるからなんだ。
0「無」を表す数。インドで生まれた
1すべての数の出発点
i回転の数。方程式から生まれた
e成長の数。利息の計算から生まれた
π円の数。円周と直径の比

うさ美
ふと思ったんですけど……主役の座、e じゃなくて 2 や 10 ではダメだったんですか? たとえば 2iπ でも −1 になるなら、eの立場がないというか……。

ねこ博士
では試してみよう。2x は「年利約69%の連続複利」だったね。だから 2iθ =(1+0.693iθ/n)ⁿ と書けて、やはり微小回転の積み重ね――ちゃんと単位円の上を回る。ただし歩く速さが 0.693 しかない。θ 進んだときに回れる弧の長さは、θ ではなく 0.693θ なんだ。

うさ美
ということは、2iπ が歩けるのは 0.693×π ≈ 2.18……。半周は π ≈ 3.14 だから――届かない! 2iπ は −1 になれないんですね。

ねこ博士
そう、2iπ は半周手前の約125°、−0.57+0.82i あたりで止まってしまう。逆に 10iθ は速さ 2.303 で行き過ぎる――10iπ は一周を通り越して約54°の位置だね。「歩いた弧の長さがちょうど θ」だから「θ=π で、ちょうど半周=−1」と言い切れるのは、速さぴったり1の e だけ。オイラーの等式の主役は、e にしか務まらないんだ。
同じ θ=π でも、歩く速さ0.693の 2iπ は半周に届かず(約125°)、速さ2.303の 10iπ は一周を通り越す(約54°)。ちょうど −1 に着地するのは、速さ1の e だけ
2iθ = 弧の長さ 0.693θ だけ回った点 → 2iπ は半周に届かない(≈ −0.57+0.82i)
10iθ = 弧の長さ 2.303θ だけ回った点 → 10iπ は一周を通り越す(≈ 0.58+0.81i)
「θ = 歩いた弧の長さ」になるのは、歩く速さがちょうど1の e だけ → eiπ+1=0 は e の特権

うさ美
もうひとつ気になります。角度をラジアンじゃなくて、慣れている「度」で書いたら、この式はどうなるんですか?

ねこ博士
やってみよう。ここで注意がひとつ。ei×180 と、度の数値をそのまま指数に入れてはいけないよ。e の指数に入れてよいのは弧の長さの数値だけ。ei×180 は「弧の長さ180」――半周どころか約28周半も回った先の、まったく別の点を指してしまう。だから度で書くなら、1度は π/180 ラジアンだから、角度 d 度を ei×d×π/180=cos d°+i sin d° と、弧の長さに直してから入れる。ここに d=180 を入れると……180 が約分されて、結局 eiπ に戻ってしまう。e を主役にしたまま角度の単位だけ変えても、π は換算係数として式のどこかに残り続けるんだ。

うさ美
じゃあ、どうしても度数だけで書きたいなら……「1度だけ回る複素数」ζ(ゼータ)=cos 1°+i sin 1° ≈ 0.99985+0.01745i を用意して、ζ¹⁸⁰+1=0……。正しいはずなのに、なんだか、ありがたみが減りますね。

ねこ博士
正しい式だが、無粋だね。底は説明の要る中途半端な数になり、「180」は古代バビロニアの60進法に由来するただの人間の取り決めで、e も π も式から消えてしまう。0、1、i、e、π が一堂に会する美しさは、「角度を弧の長さで測る」というラジアンの約束――自然にとっていちばん素直な測り方――があってこそ、なんだ。
e の指数に入れてよいのは弧の長さ(ラジアンの数値)だけ。ei×180 は「180ラジアン = 約28周半」のまったく別の点
度数で書くと:ei×d×π/180 = cos d°+i sin d° → d=180 では 180 が約分され、eiπ に戻る(e を使う限り π は換算係数として残る)
無理やり度数版:ζ(ゼータ)= cos 1°+i sin 1° ≈ 0.99985+0.01745i として ζ¹⁸⁰+1=0 ……正しいが、e も π も消えてしまう

うさ美
……あの、いま博士ご自身で「ラジアンの約束があってこそ」とおっしゃいましたよね。考えてみると、この式の π は、もともとは「半周」という記号ではなく、ただの実数 3.141592… です。ためしに π をただの実数として扱い、指数法則で eiπ=(eπ)i=(23.14…)i と変形してみると――「23.14…を i 回掛ける」となって、意味が分からなくなってしまいます。−1 にたどり着けるのは、i乗を「微小回転の積み重ね」と読み替えて、θ を弧の長さで測るという約束を通したときだけ。しかも1周を 1 と数える流儀なら半周を表す数は 0.5 で、−1 に着く「特別な数」まで約束しだいで変わってしまう……。この式は「美しい」というより、そう見えるように私たちが読み方と単位を選んだだけ、ではないですか?

ねこ博士
むう……手厳しいね。しかも半分は、その通りなんだ。式の見た目の簡潔さは、たしかに記法の選び方の産物だよ。中身だけなら ζ¹⁸⁰+1=0 と同じなのだから。ただ、ひとつだけ訂正がある。e とラジアンは、別々に選んだ2つの約束ではないんだ。底に e を選ぶと、eix の点は速さぴったり1で歩く――だから x は自動的に「歩いた弧の長さ」になる。e を選んだ瞬間、ラジアンのほうは選ばされている。そのうえで考えてみてほしい。e は利息の計算から、π は円の測量から、i は方程式の解から――誰も出会わせるつもりのないまま、別々の問題から生まれた数たちだよ。それぞれの分野で「いちばん自然な単位はどれか」と数学に問うたら、返ってきた答えが e であり、ラジアンだった。約束は約束でも、バビロニアの60進法のような人間の都合ではなく、数学の側が指定してきた約束なんだ。

うさ美
180度とは、約束の「格」が違う……ということですか。それに、言われてみれば……底を 2 や 10 にしても、「指数が回転になる」こと自体は消えませんでしたね。速さが 0.693 に変わるだけで、ちゃんと円の上を回っていました。

ねこ博士
そう、そこが核心だ。成長と回転がつながっているという事実そのものは、どんな記法を選んでも消えない。e とラジアンは、そのつながりを一点の曇りもなく見せてくれる、いわば自然が選んだ単位なんだ。わたしが「美しい」と言っているのは、インクの並びのことではなく、その継ぎ目のなさのこと。……とはいえ、この式が「当たり前」に見えるようになったのなら、それはきみが仕組みを全部たどった証拠でもあるね。

うさ美
でも今の私には、この式が魔法じゃなくて「成長の数 e が、i のせいで回転させられて、円周率 π のぶんだけ歩いたら、−1 に着いた」っていう、具体的な散歩の話に見えます……!

ねこ博士
それこそが複素数の世界の歩き方だよ。数直線からはみ出した「ありえない数」は、実は数の世界を平面に広げ、成長と回転をひとつに結ぶ主役だった。ようこそ、複素数の世界へ。そして――全ステージクリア、おめでとう!
確認クイズ
Q1. eiπ は?
正解! 1から単位円を半周(弧の長さπ)歩くと−1に着く。だから eiπ=−1、移項して eiπ+1=0。
Q2. では eiπ/2(4分の1周)は?
正解! 1から4分の1周(90度)回ると虚軸の上、つまり i。ステージ4の「×i=90度回転」とぴったりつながる。
Q3. オイラーの等式 eiπ+1=0 に登場しない数は?
正解! 登場するのは 0、1、i、e、π の5つだけ。足し算・掛け算(累乗)・等号も1回ずつ。これ以上ないほど無駄のない式だ。